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奈良地方裁判所 平成2年(ワ)357号 判決 1993年6月02日

原告

中部交通共済協同組合

被告

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告は原告に対し、四二八二万四四八九円及びこれに対する平成二年七月三一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え

2  訴訟費用は被告の負担とする

との判決及び1項について仮執行宣言。

二  被告

主文同旨の判決。予備的に担保を条件とする仮執行免脱宣言。

第二当事者の主張

一  当事者間に争いのない原告の請求原因事実(本件交通事故の発生)

1  発生日時 昭和六三年七月四日午前六時四五分ころ

2  発生場所 奈良県山辺郡山添村大字遅瀬一五〇五番地先の一般国道二五号線(通称名阪国道。以下、本件事故発生場所を「本件事故現場」といい、本件事故発生場所付近の一般国道二五号線を「本件道路」という)

3  被害車両 訴外黒木重昭運転の普通貨物自動車(大阪46む367。以下「黒木車」という)

訴外中井洋一運転の普通貨物自動車(三11せ2685。以下「中井車」という)

4  加害車両 訴外木戸裕幸が運転し、訴外丸一運輸株式会社(以下「訴外会社」という)が保有する大型貨物自動車(名古屋11く6511。以下「加害車」という)

5  事故態様 本件事故現場付近において、本件道路を三重県方面から大阪府方面に向かつて加害車を運転して進行中であつた訴外木戸が、加害車のハンドル操作を誤り、本件道路のコンクリート製基礎部分及び連続式ガードレールで構成される中央分離帯の途切れた開口部(以下「本件開口部」という)から対向車線に進出した結果、反対車線を走行中の黒木車の右側側面に衝突し、さらに黒木車の後続車である中井車の右側側面にも衝突し、よつて、黒木車の運転者である訴外黒木重昭及び同車後部座席に同乗していた訴外竹井義照を死亡させ、同車助手席に同乗していた訴外小城幸正に安静加療一か月を要する傷害を負わせると共に、中井車を運転していた訴外中井洋一に対しても通院加療一週間を要する傷害を負わせた。

二  被告の知らない又は争う原告の請求原因事実

1  本件事故の発生原因(本件道路の設置又は管理の瑕疵)

本件事故は、訴外木戸及び訴外会社側の過失責任と、左記のとおりの被告国側の道路の設置又は管理の瑕疵の存在の競合によつて発生したものである。

(一) 本件開口部の設置位置(設置上の瑕疵)

本件事故現場は、勾配が急である上に鋭いカーブの頂点付近に当たる場所であり、本件道路を通行する自動車は、アクセルペダルを踏み込んで一層の加速をして走行しているのが現状である。そうすると、本件事故現場で事故が発生した場合には、走行車両に対し、遠心力による対向車線に向かう強い力が加わる。

そのような箇所に、あえて、頑丈な防御柵を設置することが困難な開口部を設けた点において、既に本件事故の設置には瑕疵があつた。

このことは、本件開口部において、昭和六三年四月七日、同年六月二一日及び本件事故の発生した同年七月四日と、わずか数カ月の間に本件を含めて三回の事故が連続して発生していることからも裏付けられている。

(二) 本件開口部の脱着式ガードパイプの強度(設置上の瑕疵)

本件事故現場以外の本件道路部分においては、中央分離帯に頑丈な防御柵が設けられているが、本件開口部に限つては、脱着式ガードパイプしか設けられていなかつた。右脱着式ガードパイプは、他の中央分離帯を構成する防御柵と異なり、事故車両を対向車線に進入させ得ないほどの強度を有しなかつたために、本件事故が発生したものであつて、右脱着式ガードパイプの強度、しいては本件道路の設置に瑕疵があつた。

このことは、本件事故後である昭和六三年八月に入り、交通管理者からの要請により、本件開口部の中央分離帯が、それまでの脱着式ガードパイプから脱着式ガードレールに構造変更された事実からも裏付けられている。

(三) 本件開口部で本件事故前に発生した事故による脱着式ガードパイプの破損についての復旧が不十分であつたこと(管理上の瑕疵)

本件事故発生時においては、昭和六三年六月二一日に本件開口部で発生した交通事故によつて、右脱着式ガードパイプが破損したのに、本件事故の発生した同年七月四日までの一三日間、正常な復旧がなされず、構造上防御上問題のある脱着式ガードパイプすらもまともに設置されずに、単に工事用バリケード(通称「トラサク」)を置いただけという簡易な応急措置しか取つていなかつた。

仮に本件開口部の設置に瑕疵がなく、しかも本件開口部に設けられた脱着式ガードパイプに瑕疵がなかつたとしても、本件道路の管理者が本件開口部を工事用バリケードの簡易な応急措置で満足したこと自体、新たな交通事故発生を防御する措置としては明らかに不当であり、管理に瑕疵があつたものといえる。

2  原告による本件事故の損害賠償金の支払

本件事故の結果、訴外木戸及び訴外会社は、本件事故の各被害者に対し、次のとおりの損害賠償責任を負つた。原告は、交通事故に関する共済事業を営む協同組合であり、訴外会社との共済契約に基づき、右損害賠償金全額を各被害者に支払つた。

(一) 訴外竹井及びその相続人竹井郁子、竹井みちる、竹井太志に対し 四〇〇〇万円

(二) 訴外黒木及びその相続人黒木敏昭、黒木貞光、黒木ノブに対し 三〇〇〇万円

(三) 小城幸正に対し 一一七万四一四九円

(四) 中井洋一に対し 二〇万円

以上合計七一三七万四一四九円

3  訴外木戸及び訴外会社の過失と被告国の道路の設置又は管理の瑕疵による責任の割合は、訴外木戸及び訴外会社側四、被告国側六である。

4  原告は、訴外会社との前記共済契約に基づき、各被害者に支払つた損害賠償金のうち、国家賠償法二条により損害賠償債務を有する被告国に対し、求償債権を代位行使し得る立場にある。

よつて、原告は被告に対し、右求償権に基づき、原告が本件事故の被害者に対して支払つた2項記載の金額の一〇分の六である、四二八二万四四八九円及びこれに対する右求償権の発生した後である平成二年七月三一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払いを求める。

三  原告の争う被告の主張

1  一般国道二五号(通称「名阪国道」を含む)の概要

一般国道二五号は、起点を三重県四日市市、終点を大阪市、主な経過地を三重県鈴鹿市、亀山市、上野市、奈良県天理市、大和郡山市、大阪府柏原市及び八尾市等とする近畿圏と中部圏を結ぶ幹線道路であり、この中に本件事故が発生した通称名阪国道が含まれる。

名阪国道と呼ばれる道路は、右一般国道二五号のうち、起点を三重県亀山市、終点を奈良県天理市とする自動車専用道路であり、このうち奈良県下(一部三重県下橋梁部分を含む)延長三一・六キロメートルについては、近畿地方建設局奈良国道工事事務所(以下「奈良国道工事事務所」という)が管理を担当している。右道路(以下においては、右道路部分を「本件道路」という)は、上下四車線で、上下車線は中央分離帯により分離され、また、一般道路とも完全に分離され、本件道路への乗り入れはインターチエンジにより行う構造となつている。

2  本件事故現場付近の道路状況

本件事故現場、奈良県と三重県の県境から約一・七キロメートル奈良県側に位置し、本件事故当時、現場付近は上下四車線、縦断勾配は五・一パーセントで、下り車線(三重県方面から大阪府方面に向かう車線)は上り勾配となつていた。また、現場付近は半径四〇〇メートルのゆるやかなカーブを呈しており、上下車線を分離している中央分離帯には、道路管理上及び交通管理上必要な別図一記載のような本件開口部(延長三〇メートル)が設けられ、同開口部には同図記載のような脱着式のガードパイプが設置されていたが、その前後の中央分離帯にはガードレールが設置されていた。下り車線には、非常時の通行止等に使用する目的で交通遮断機が設置されており、積載重量超過車両等の取締基地や雪氷時のタイヤチエーンの脱着場となる遅瀬計量所(遅瀬チエーン着場)も設置されていた。

3  本件開口部の機能及び必要性

道路管理者は、異常気象時あるいは凍結・積雪による事故等の発生が予想される場合には、道路の構造を保全し又は交通の危険を防止するため、区間を定めて、道路の通行を禁止し又は制限することができる。

本件道路においては、三重県境から天理東インターチエンジまでの二九・六キロメートルが異常気象時の通行規制区間となつており、また、三重県境から天理インターチエンジまでの管理区間全てが雪害対策区間となつている。

異常気象や凍結・積雪により通行規制を行う場合には、規制区間の起終点付近において交通を処理するための駐車スペースが必要であるが、本件事故現場付近には、起点側のスペースとして遅瀬チエーン着場が設置されており、通行止時に三重県側から走行してきた車両に対しては、右地点においてUターンさせ、また、凍結・積雪によりチエーン規制を行う時には、遅瀬チエーン着場において各車両にタイヤチエーンを着装させるものであるが、タイヤチエーン不携帯車両については右地点においてUターンさせ、三重県方面に帰させることにしている。

ところで、本件道路は自動車専用道路であり、上下車線は中央分離帯によつて完全に分離されているもので、他の道路と出入りできる場所はインターチエンジだけに制限されている(仮に引き返す場合でも、通常時はインターチエンジでいつたん他の道路へ出ることになる)。

ところが、本件道路は山間部を通過するため、三重県境から西に向かつて概ね上り勾配となつており、西へ行くほど標高差を増し、遅瀬チエーン着場付近を境にして、以西は急激に気象条件が悪化する。

したがつて、異常気象時や凍結・積雪時に右チエーン着場より更に西に向かつて車両を走行させ、山添インターチエンジで転回させることは、交通の危険を増大させることになり、極めて不適切な処置である。

このようなことから、異常気象時による通行規制時には、遅瀬チエーン着場において西行車両の走行を停止させ、中央分離帯に設けた開口部を使つてUターンさせ、本件道路を引き返させるのが最も安全で適切な交通処理方法なのである。

以上のとおり、本件開口部は、三重県境(奈良国道工事事務所の管理する始点)から奈良県に入つて最初で唯一の駐車スペースである遅瀬チエーン着場と一体となつてその機能を発揮するものであり、通行規制時の交通処理上欠くことのできない施設である。

4  本件開口部付近の道路構造の安全性

原告は、本件開口部の設置等に瑕疵があるとする根拠として、本件開口部付近が「勾配が急であるうえに鋭いカーブを伴つている」とし、交通上危険な箇所であるかのように主張している(二項1(一))。

(一) 本件道路の横断面構成について

本件道路は、道路構造令三条による自動車専用道路として設計された道路であり、第一種第三級に区分される道路であつて、その標準断面は別図二のとおりである。中央部分には幅員三メートルの中央帯(分離帯一・五メートル、側帯片側〇・七五メートル)が設置され、その両側に三・五メートルの追越車線、同じく三・五メートルの走行車線が設置され、さらにその両端には二メートルの路肩が設置されており、車道は充分な余裕を持ち、理想的な車線幅員を有した安全性の高い道路である。

(二) 曲線半径

道路構造令一五条、一三条によれば、本件道路の曲線半径は二八〇メートル(特例によれば二三〇メートル)まで縮小することができる。この最小曲線半径二八〇メートルとは、線形の設計に当たつて、車両が道路の曲線部においても直線部と同様安定した快適な走行ができるように定められた数値である。本件事故現場付近の曲線半径は四〇〇メートルであるから、道路構造令を十分に満足した緩やかなカーブであつて、車両走行の安全性に関して何の支障も存しない。

(三) 道路縦断勾配

道路構造令二〇条、一三条によれば、本件道路の縦断勾配は原則として四パーセント以下とすることとされているが、地形の状況その他の特別の理由により、やむを得ない場合には、これに三パーセントを加えた七パーセント以下とすることができるとされている。本件事故現場付近における本件道路の縦断勾配は五・一パーセントであり、道路構造令に定める数値を満足しており、危険な勾配であるとはいえない。しかも、本件事故に即していえば、加害車両の走行していた車線は上り勾配であり、縦断勾配についてその危険性を議論する余地はない。

(四) 以上のとおりであつて、本件開口部付近が道路交通上危険な箇所とはいえず、このことを前提とする原告の主張は理由がない。

(五) なお、原告は、本件開口部が遅瀬チエーン着場と一体となつて機能を発揮すべきことは一応認めるも、チエーン着場自体をより勾配が小さく、カーブも緩やかな地点に設置すべきであると主張するもののようである。

しかし、本件開口部付近から三重県境側(東方)の五月橋インターチエンジ付近までの本件道路の三重県側から見て左側(南方)は、その大半が崖地であり、チエーン着場を設置できるようなある程度の広さの平坦地は見当たらない。崖地を埋め立て、あるいは削り取ることによりチエーン着場を設置することは不可能ではないが、多額の公費及び相当の工期を要する上に、自然地形を必要もなく変更することは、本質的に崖崩れの危険を生じさせるものであつて、適切な措置ではない。後記5項のとおり、本件開口部自体にとりたてていうほどの危険性はなく、遅瀬チエーン着場設置場所の選定に誤りはない。

5  本件道路及び開口部の設置又は管理の瑕疵の有無について

(一) 国家賠償法二条一項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常具有すべき安全性を欠くことを指称するものであり、それは、当該営造物を通常の用法に即して利用することを前提として、その構造、用法、場所的環境及び利用状況などの諸般の事情を総合的に考慮して、具体的、個別的に判断すべきものであるが、事故が営造物管理者の通常予測できないような行動に起因して発生した場合においては、当該管理者はもはやその責めに任ずべき理由はない(最高裁昭和五三年七月四日第三小法廷判決・判例時報九〇四号五二ページ)。

(二) ところで、本件道路管理者の知る限りにおいては、本件事故現場及びその付近で、本件事故前に本件と同様な事故(三重県方面から大阪府方面に向かう下り車線で起きた人身事故)が発生したことはない。昭和六三年六月二一日の事故は、大阪府方面から三重県方面に向かう上り車線(下り勾配)での玉突衝突によるはずみでトラツクが対向車線(大阪府方面行き車線)へ逸走し、対向車と衝突した事故であり、車線も態様も本件事故とは異なるのであつて、これを本件と同種事故と表現することは正確でない。

(三) 本件事故現場付近の道路は、左方に湾曲している上、当時降雨中で路面が濡れていて車両が滑走し易い状態にあり、しかも本件加害車のトラクター(牽引車)部の前・後輪はタイヤが磨耗しており、一層滑走し易いことが予想される上、トレーラが湾曲した道路を走行する場合の安定は良くないのであるから、本件道路を通行する運転者としては、制限速度を守ることはもとより、適宜減速する等の注意義務を遵守し、車両の滑走を防止しながら運転走行し、もつて事故発生を未然に防止するのが通常であつて、道路管理者としては、右注意義務に違反して運転する者があろうとは通常予想し得ないものである。

(四) しかるに、加害車の運転者である訴外木戸は、本件道路及び加害車が右のような状態にあることを認識しながら、あえてその注意義務を怠り、制限速度である時速六〇キロメートルを超える時速七〇ないし八〇キロメートルの高速度で漫然と走行した過失により、湾曲部で自車後輪を滑走させ、更に進路左側ガードレールとの衝突の危険を感じ、これを避けようとして右に転把した結果、いわゆるジヤツクナイフ現象を生じさせたことにより走行の自由を失い、自車を右斜め前方に暴走させて中央分離帯(本件開口部)を突破し、本件事故を惹起するに到つたものである。

(五) 右(二)ないし(四)の事情を総合すれば、本件事故は本件道路管理者において予測し得ない右訴外木戸の道路状況等を無視した無謀かつ危険な運転行為に起因したものであることは明らかであつて、本件道路(開口部)の設置の瑕疵によるものではないというべきである。

6  中央分離帯上のガードレールの安全性

また、原告は、本件開口部に設置されていた脱着式ガードパイプの強度に瑕疵があつた旨主張する(二項1(二))。

(一) ガードレールの設置目的については、一般に、<1>制御を失つた車両が路外に逸脱するのを防ぐ、<2>衝突車を正常な進行方向に復元させる、<3>衝突車の乗員の安全性を確保する、<4>物的損害を最小限度に抑える、<5>運転者の視線を誘導する、などが挙げられており、本件のような対向車線への逸脱事故の防止を重要な目的とするものであることはいうまでもない。

(二) しかしながら、このことは、現在設置されているガードレールが、いかなる事故についてもこれを未然に防止できるように設計設置されているということを意味するわけではない。高速度で走行する大型自動車の有する運動エネルギーは極めて大きく、あらゆる事故に耐えられるような構造のガードレールを造ることは、技術的に全く不可能ではないにしても、大口径の支柱と厚い鉄板を必要とするほか、これを支え、かつ衝突のエネルギーにも耐えられるような堅固な地盤工事をも必要とするのであつて、現実には不可能である。中央分離帯をコンクリート擁壁等にすれば、そのような強度は確保できるかもしれないが、そのときには、衝突エネルギーを衝突車両が全て吸収することとなるため、その乗員に重大な危険が及ぶこととなり、適切でない。ガードレールの備えるべき安全性といつても、それは絶対の安全ではなく、通常の運転方法を前提とする相対的なものなのである。

そこで、ガードレールの設計基準については、これらの制約等も勘案の上、当該道路の通常の走行に伴う事故を防止するに足りる程度の強度を有するガードレールを設置することとされているのであつて、その基準は防護柵設置要綱(以下「要綱」という)において具体的に定められており、本件道路の中央分離帯上のガードレールも、右要綱にしたがつて設置されている。

(三) 本件道路は、要綱の分類では、「高速自動車国道、自動車専用道路、特に主要な一般国道」に属する道路であるから、車両の衝突速度六〇キロメートル毎時、車両の重量一四トン、車両の衝突角度一五度の事故を想定し、これに耐え得るようなガードレールを設置しているものである。

しかるに、本件事故の態様は、本件事故の刑事事件記録等によれば、車両の衝突速度がすくなくとも七〇キロメートル毎時、車両の重量一〇トン、車両の衝突角度四〇度であるから、この条件下でガードレールに加わる運動エネルギーを計算すると、要綱の想定した事故の約六倍になり、仮に本件開口部に要綱の基準を満たすような連続したガードレールが設置されていたとしても、本件事故によつてそれが破壊されたことは明らかである。

右計算は、連続したガードレールを前提とするものであるが、本件開口部の必要性が認められる以上、同所に連続したガードレールを設置することは不可能であり、脱着式ガードレールを設置するほかない。要綱に定める強度計算は、衝突部位に対して加えられたエネルギーを、連続したガードレールのそれぞれの支柱が分担することが前提とされているものであり、当然ながら、二本しか支柱のない脱着式ガードレールの抵抗力がより低下することは明らかである。

(四) そもそも、脱着式のガードレールについては、その耐えるべき事故を想定して設計基準を定めるということはなされていないのであつて、本件のような対向車線への逸脱事故を防止するという機能は、連続したガードレールほどには予定されておらず、むしろ、運転者の視線誘導や、開口部からの逆行防止の目的が主となつているのである。このことは、本件事故当時設置されていたガードパイプについても同じであり、瑕疵があるという原告の主張は非現実的である。

7  本件開口部の構造

本件開口部の構造については、平常時においては進入防止柵として物理的に上下車線を分離し、もつて側方余裕の保持、車道端又は線形の明示、Uターンの防止をし、緊急時においては、迅速にその機能を発揮させるため容易に開閉できるものであることが要求されることから、開口部用の脱着式ガードパイプを設置していたものである。

もつとも、本件事故当時は、昭和六三年六月二一日に本件開口部で発生した交通事故によつて、右脱着式ガードパイプが破損したため、応急的な措置として、脱着式ガードパイプと工事用バリケードをほぼ交互に設置し、工事用バリケードにはデリネーター(視線誘導標)を付加するなどの措置を講じて、運転者の視線誘導、車道端及び線形の明示、Uターンの防止等の機能を持たせていたのであり、応急措置としては何ら不十分なものではない。

原告は、右事故後の本件開口部の復旧の遅れが本件道路の管理の瑕疵にあたると主張している(二項1(三))。

しかしながら、本件開口部の復旧工事に際しては、奈良県警から復旧の方法に関して申入れがあり、警察との協議を要したほか、<1>新たに設置することとなつた脱着式ガードレールの加工製作、<2>脱着式ガードレール設置のためのコンクリート基礎施工及び養生、<3>脱着式ガードレールの設置という工事が必要で、本件事故発生までにこれを本格復旧させることは不可能であつた。

しかも、仮に脱着式ガードレールによる本格復旧が本件事故当時なされていたとしても、連続したガードレールよりもはるかに強度の弱い脱着式ガードレールによつては本件事故が防止できなかつたであろうことは、6項で検討したところから明白である。事故の拡大防止の点についても、本件事故の衝突エネルギーは連続したガードレールについての設計強度の六倍という強大なものであつたことからすれば、その防止はほとんど望み得なかつたとみるのが相当である。

第三証拠

記録中の書証目録、証人等目録各調書の記載を引用する。

理由

一  本件の主要な争点は、本件道路(被告国の設置・管理する国道)が通常有すべき安全性を欠如するか否かである。

そこでまず、争点について検討するための前提事実として、(一)本件事故当時の本件事故現場の道路状況等、(二)本件事故状況、(三)政令や通達による本件道路や防護柵の設置基準についてそれぞれ認定した上で、原告が事実及び争点欄第二の二項1で指摘する本件道路の瑕疵(<1>本件開口部の設置位置の瑕疵、<2>本件開口部の脱着式ガードパイプの強度の瑕疵、<3>本件開口部の脱着式ガードパイプの維持・修繕の瑕疵)が認められるか否かについて検討する。

二  前提事実の認定

1  本件事故当時の本件事故現場の道路状況等

成立に争いのない甲第四、六、七号証、乙第一号証、乙第二号証の一から三及び乙第四号証、撮影者、撮影日時場所について争いのない検乙第一、二号証、本件事故現場の写真であることについては争いのない検甲第一から三三、三五から六八、証人植野友之の証言及び同証言によつて成立の認められる乙第五、七号証並びに弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(一)  本件事故現場は、上下四車線の自動車専用道路である一般国道二五号線を三重県と奈良県の県境から約一・七キロメートル奈良県側に入つた地点であつて、同所より三重県側(東方)の五月橋インターチエンジと、同所より大阪府側(西方)の山添インターチエンジのほぼ中間に位置する。本件事故現場に三重県方面から大阪府方面に向かつて西進してくると(加害車の進行方向)、本件道路は四〇〇メートルの曲線半径で左にカーブしており、また、五・一パーセントの上り勾配ともなつている。本件事故現場の南側(加害車の進行方向左)には、本件道路から進入することができる「遅瀬計量所(遅瀬チエーン着場)」が存する。同所には、車両の重量を測定するための計量器や、大型車十数台のほか小型車も多数駐車することのできる平坦な駐車場が設けられている。

(二)  本件事故現場付近における本件道路の中央分離帯(本件開口部を除く)には、幅員一・五メートル、路面からの高さ一〇ないし二〇センチメートル程度のコンクリート製の基礎上におよそ四メートル間隔で直径約一一・四センチメートルの鉄製の支柱を立て、右支柱に高さ約三五センチメートルの波形断面の鉄製ビームを路面に水平に取りつけた連続式ガードレールが設置されている。しかしながら、本件開口部においては、延長三〇メートルにわたつて右コンクリート基礎部分がなく、路面と同一の平面となつていて、連続式ガードレールも設置されていない。

(三)  本件開口部には、本件事故が発生する一三日前の昭和六三年六月二一日までは、直径六〇・五ミリメートルの鉄製パイプをコの字形に成型し、その両端部約三〇センチメートルを路面下に掘削した穴に差し込んで固定する、長さ約一・五メートルの脱着式ガードパイプが中央分離帯中央に一列に複数個設置されていた。ところが、同日、本件事故現場付近の下り勾配を本件加害車の進行方向とは逆に大阪府方面から三重県方面に向かつて走行していた普通トラツクが、本件事故現場における右へのカーブの手前でブレーキを掛けたところスリツプし、本件開口部上の脱着式ガードパイプを突き破つて反対車線に進入し、対向車と衝突する事故が発生した。そのため、右ガードパイプの一部が破損し、右の復旧工事が行われるまでの間の応急措置として、右ガードパイプと路面に直接置く形式の工事用バリケードがほぼ交互に設置され、視線誘導標も付された。

ところが、本件事故現場付近においては、同年四月七日にも、右事故と同様大阪府方面から三重県方面に向かう下り勾配を走行していたトラツクが中央分離帯を突き破つて対向車線に飛び出す死亡事故が発生していた。そこで、奈良県警察本部高速隊は、同年六月二九日、奈良国道工事事務所奈良維持出張所長ら係員を現地に招いて現地視察を行つた上、右開口部が大阪府方面から三重県方面へ向けての急な下り坂である上に厳しい右カーブの曲がり角となつている場所に設置されているため、スピードが加わつた上にハンドル操作を誤つて開口部から対向車線に飛び出す危険性があることから、右開口部を平坦部に移転するか、新しく頑丈な防護柵にするよう要請した。右要請を受けた同出張所長らは、同年七月三日ころまでに、右開口部の位置についての変更はしないものの、防護柵を脱着式ガードパイプからより頑丈なもの(脱着式ガードレール)に取り替えることで右高速隊と合意し、直ちに右工事に取り掛かることにした。

以上のような経過のため、本件開口部は、本件事故の日である同年七月四日においても完全な復旧がなされておらず、応急措置のままの状態であつた。なお、本件事故後、本件開口部には、右脱着式ガードレールが設置された。

(四)  本件道路は、切土や盛土によつて山を切り開いた道路であり、海抜もかなり高い山間部を通過していることから、気象の影響を受けやすい。特に、本件道路を走行して三重県側から奈良県内に入ると、上下の勾配やカーブが多くなり、西(大阪府側)に向かうにしたがつておおむね標高が増し、気象条件も悪化する。そこで、本件道路を管理する奈良国道工事事務所では、連続雨量が一六〇ミリメートルを超えた場合は、本件事故現場付近の遮断機を下ろして通行止を行い、本件開口部から車両をUターンさせたり、規制解除を待つ車両に対して右規制区間の起点側で唯一の駐車スペースである遅瀬チエーン着場まで誘導している。

また、冬季の積雪・凍結の状況によつては、通行止等の規制も行うが、通行止の場合は遮断機を下ろして三重県側から来た車両を本件開口部からUターンさせ、規制解除を待つ車両に対してはチエーン着場まで誘導している。

チエーン規制の際には、車両をチエーン着場に誘導してチエーンを付けさせ、チエーン不携帯車両については開口部からUターンさせ、あるいは規制解除までチエーン着場で待機させている。

2  本件事故状況

成立に争いのない甲第二、五から九号証、乙第八号証の一、二によると、本件事故状況については、事実及び争点欄第二の一項の事実(当事者間に争いがない)に加えて次の事実が認められる。

すなわち、本件事故当時、本件事故現場付近は小雨が降り続き、路面には雨水が流れている状態であつた。本件道路の制限時速は時速六〇キロメートルであつた。加害車は、いわゆるセミトレーラ車であつて、トラクタ部とトレーラ部を一本の鉄の棒で連結して走行するものである。訴外木戸は、トラクタ部の六本全部のタイヤが磨耗していることを知つており、間もなく右タイヤを交換する予定であつた。同人は、トレーラが空荷であることに気を許し、本件事故現場の上り勾配を時速七〇から八〇キロメートルの高速度で進行していたところ、同所が左カーブであつたことからトラクタ部の後輪が突然右の方へ滑り出し、トラクタ部が左斜め前方に向かい、トレーラ部が直進する形となつて、車体がくの字の形に曲がり出した。木戸は、そのままでは同車が道路左側のガードレールに衝突するものと考え、あわててハンドルを右に切つたところ、今度は反対にトラクタ部が右前方に滑り出し、トレーラ部とトラクタ部がくの字の形になる、いわゆるジヤツクナイフ現象を生じて同車の操縦が不可能となり、そのまま本件開口部上のガードパイプ及び工事用バリケードをなぎ倒しながら対向車線に進出し、トレーラ部の左前部を黒木車及び中井車のそれぞれ右前方に衝突させた。

3  政令や通達による本件道路や防護柵の設置基準

成立に争いのない乙第九号証、弁論の全趣旨及び当裁判所に顕著な事実によると、次の事実が認められる。

(一)  一般に、道路の構造については、道路法三〇条一項に基づく道路構造令(昭和四五年一〇月二九日政令三二〇号)によつて、その技術的な基準が規定されており、その内容は同欄第二の三項4の(一)から(三)記載のとおりであつて、本件道路は、本件事故現場付近の道路部分を含め、右基準に適合している。

なお、本件道路の設計速度は八〇キロメートル毎時である。

(二)  ところで、防護柵の設置基準については、昭和四七年一二月一日、建設省道路局長から各地方建設局長らあてに、「防護柵の設置基準の改訂について」(乙第九号証)が通達されており、同通達によれば、「防護柵は、主として走行中に進行方向を誤つた車両が路外、対向車線または歩道等に逸脱するのを防ぐとともに、乗員の傷害及び車両の破損を最小限にとどめて、車両を正常な進行方向に復元させることを目的とし、副次的に運転者の視線を誘導し、また、歩行者のみだりな横断を抑制するなどの目的をかねそなえた施設をいう(同通達一―二)」とされ、道路の種類ごとの防護柵の設計条件を定めている(同二―一)ほか、分離帯を設置する場合として、次のとおり定めている(同二―二―二)。

「分離帯を有する道路のうち、下記各号の一に該当する区間においては、車両の対向車線への逸脱を防止するため、道路及び交通の状況に応じて、原則として防護柵を設置するものとする。

1  高速自動車国道および自動車専用道路において設計速度八〇キロメートル毎時以上の道路の区間。」

三  検討

以上認定の事実に基づいて、以下、本件道路に原告の主張する瑕疵が存在するか否かについて検討する。

1  本件開口部の設置位置についての瑕疵

(一)  駐車場と一体となつた開口部の必要性

本件道路と下り線(三重県から大阪府方面へ向かう車線)のうち、標高が増すと共に、上下の勾配やカーブが多くなり、気象条件も悪化を始める地域である五月橋インターチエンジから山添インターチエンジの間において、交通規制を行うと共に、それに伴い本件道路においてUターンが可能となるような中央分離帯の開口部が必要であること、しかも、右開口部においては、大型車を含めたある程度の台数の自動車が駐車できるスペースが一体となつていることが望ましいことについては、二項1(一)、(四)で認定した事実から明らかである。

(二)  本件開口部の設置位置の危険性(その一・曲線半径について)

ところで、本件開口部が設置されている場所は、加害車が進行してきた三重県方面から大阪府方面に向かつて走行した場合を考えると、四〇〇メートルの曲線半径で左にカーブしており、また、五・一パーセントの上り勾配となつている(同項1(一))。しかしながら、まず、右四〇〇メートルの曲線半径というのは、道路の設置についての社会通念上の一応の基準となり得ると考えられる道路構造令の基準に合致するものであり(同項3(一))、本件事故現場付近の地形や気象状況及び交通状況に照らしても、右の基準が不合理であるとは認められない。

もつとも、本件道路は、亀山インターチエンジ以東及び天理インターチエンジ以西においては高速自動車国道と接続している上、右各インターチエンジの間の自動車専用道路部分においても、ほとんどの区間においては高速自動車国道に準ずるような整備された道路であるため、その制限速度である時速六〇キロメートルを相当程度上回つた時速八〇キロメートルないし一〇〇キロメートルという高速度で進行する自動車も多いことは、当裁判所に顕著である。そして、右のような高速度で走行することを前提とすると、右四〇〇メートルの曲線半径は比較的厳しいカーブであり、その走行の危険性も高いといえる。

しかしながら、本件開口部は、自動車が下り線を進行してきた場合、高速自動車国道から自動車専用道路部分に接続する亀山インターチエンジから相当の距離(市販の地図で検討すると、おおよそ五〇キロメートル)を隔てている上、後記のとおり相当厳しい上り勾配の途中に存するなど、その運転環境も高速自動車国道とは相当異なることが容易に運転者に判明する道路部分に存する。そうすると、自動車運転者が、制限時速を六〇キロメートルとされている本件道路を右のような高速度で進行すること自体が無謀なのであつて、右のような運転者が存することを重視して、本件開口部付近のカーブの危険性が高いということは妥当でない。

(三)  本件開口部の設置位置の危険性(その二・勾配について)

原告は、本件開口部が設置された場所の上り勾配が急であり、このような場所においては、自動車運転者は一層の加速をして走行するので、前記カーブに伴う遠心力も大きくなり、危険であると主張する。

なるほど、自動車運転者が勾配の急な上り坂を登る場合、アクセルを踏み込んで自動車の速度を低下させないようにすることは当然である。しかしながら、カーブにおける遠心力とは、速度に比例して増大するのであつて、アクセルを踏み込んだからといつて、自動車の速度が増大しない限り遠心力が増すことはない。急な上り勾配において自動車運転者が一層の加速をすることは通常のことではなく、原告の主張は理解できない。

(四)  本件開口部において従前発生した事故について

さらに原告は、本件開口部付近の道路状況の危険性を示すものとして、本件開口部において本件事故以前に二件の事故が発生していた点を指摘する。

しかしながら、原告の指摘する事故は、同項1(三)で認定したとおり、いずれも本件開口部付近の本件道路を大阪府方面から三重県方面に向けて走行してきた自動車が、急な下り勾配であることも一因となつて運転を誤つたために発生したものと推認されるのであつて、右の各事故の発生原因は本件事故とは無関係である。本件事故の発生した本件開口部付近の道路の危険性について、右各事故の存在を理由とすることはできない。

(五)  まとめ

以上の次第であつて、本件開口部設置の必要性は認められるところ、その設置位置が不適当であつて、本件道路が通常有すべき安全性を欠くものとはいえない。

2  本件開口部の脱着式ガードパイプの強度についての瑕疵

(一)  防護柵の設置基準について

二項3(二)で認定したとおり、防護柵については、建設省道路局長通達により、その設置目的、設置場所及び設置条件等が定められており、これによると、本件開口部付近は、設計速度八〇キロメートル毎時の自動車専用道路であつて、一般的には、走行中に進行方向を誤つた車両が対向車線等に逸脱することを防ぐため、一定の強度の防護柵が設けられるべき場所にあたるといえる。

しかしながら、右通達の基準は、同通達中でも述べられているとおり、「道路及び交通の状況に応じて、原則として」適用されるものであつて、右の状況次第では、それを遵守することが困難となることをも予想しているものと判断される。

(二)  開口部における防護柵についての考え方

1項で検討したとおり、本件開口部を設けることが必要である以上、本件開口部がその用法(車両の通過等)を満たすためには、本件開口部に車両の通行の困難となるような縁石やコンクリート製の基礎、脱着の不可能な連続式ガードレール等を設置することはできず、また、本件開口部を車両が通過する必要性が生じたときは、すみやかに開口部上の工作物を除去できるようにしなければならないことが明らかである。

そうすると、本件開口部における防護柵の強度には、自ずから限界を認めざるを得ないものといえ、本件開口部の用法を満たした上で、できる限りの強度を有するもので満足しなければならないものといえる。

(三)  脱着式ガードパイプの強度について

本件事故当時、本件開口部には、本来脱着式ガードパイプが設置されることとなつていた。そして、右脱着式ガードパイプが、昭和六三年六月二一日に発生した事故を契機に、奈良県警察本部高速隊の申入れもあつて、脱着式ガードレールに変更されることとなり、現在(本件口頭弁論終結時である平成四年一二月九日)、本件開口部には、脱着式ガードレールが設置されていることは、二項1(三)で認定したとおりである。

しかしながら、右脱着式ガードパイプと脱着式ガードレールの強度を比較した場合、後者の強度が前者に比べてどの程度大きいのかについては明らかでない。前者でも、その路面下に差し込まれた両端部の長さやパイプの材質や径の太さ次第では、後者に勝る強度を持つことも可能であると認められる。そして、ガードパイプもガードレールと並ぶ防御柵の一種として認識されていることも明らかである(乙第七号証の1ページ以下参照)。

(四)  まとめ

以上の各事情を考慮すると、本件事故当時、本件開口部に脱着式ガードレールではなく脱着式ガードパイプが設置されていたという一事をもつて、本件道路の設置に瑕疵が存するということはできない。

3  脱着式ガードパイプの破損の復旧についての管理上の瑕疵

(一)  本件事故当時の開口部の状況とその経緯

二項1(三)で認定したとおり、本件事故の一三日前である昭和六三年六月二一日に発生した交通事故により脱着式ガードパイプのいくつかが破損したため、応急措置として、破損しなかつた脱着式ガードパイプと路面に置くだけの工事用バリケードをほぼ交互に設置し、視線誘導標も取り付けられた。ところが、右開口部の防護柵(以下「本件防護柵」という)の本格復旧がなされる前の同年六月二九日ころ、奈良県警察本部高速隊から、本件開口部の移転あるいは防護柵の変更が要請されたため、それを受けて同隊と奈良国道工事事務所奈良維持出張所長らとの間で協議が持たれ、同年七月三日ころ、本件防護柵を脱着式ガードレールに変更することが合意されるという経過をたどつた。そのため、右の間、本件開口部の本格復旧が着手されず、本件事故発生当時(同年七月四日)においても、本件防御柵については、右応急措置がなされただけの状態となつていた。

(二)  本件防護柵の復旧についての過誤の存否

以上の状況から考えると、本件事故発生当時、本件開口部の防護柵が本来の状態になかつたことは明らかであり、すくなくとも交互に置かれた工事用バリケード部分については、視線誘導効果や対向車線への進入防止効果はともかく、進行方向を誤つた車両が対向車線に逸脱することを防止したり、車両を正常な進行方向に復元させる効用はほとんど期待できず、脱着式ガードパイプが設置された部分において右の効用もある程度は保つていたものの、全体としては十分でなかつたといえる。

しかしながら、同じく(一)で指摘した事情、とりわけ、本件防護柵の破損は、第三者による事故が原因で生じたものであつて、被告国としては直ちにそれに対する応急措置を取り、右の措置の方法も、不十分ながら防護柵としての効用が保てるように工事用バリケードと破損しなかつた脱着式ガードパイプを交互に設置し、視線誘導標を取りつけるなどしていて、過誤はなかつたと認められること、そもそも本件防護柵を元通りに本格復旧させるためだけでも、脱着式ガードパイプの補修や製作にある程度の日時が要したものと考えられ、一三日間にわたつて完全復旧がなされなかつたことをもつて、直ちにそれが長期に過ぎると断定できない上に、右応急措置の後本格復旧に着手する前に、本件道路の交通管理者である警察から、本件開口部の移転あるいは防護柵の構造変更等についての申入れがあり、それに対する協議、検討が行われるまで本件防護柵の本格復旧に取り掛かれなかつたこともやむを得なかつたと認められるのであつて、これらの事情も考慮すると、本件事故当時、本件防護柵の完全な復旧がなされていなかつたことをもつて、被告国に過誤があつたものとはいえない。

(三)  まとめ

以上検討したところによると、本件事故発生当時、本件防護柵の復旧がなされていなかつたことをもつて、本件道路の管理に瑕疵があつたものとは認められない。

四  結論

以上検討したところによると、原告の主張する本件道路の設置又は管理の瑕疵があつたとは認められない。そうすると、原告の請求はその他の点について判断するまでもなく理由がない。よつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 森脇淳一)

中央分離帯開口部進入防止柵

平面図

<省略>

構造図

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横断図

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